ベーブ・ルースのサインボール

 1926年のこと。ジョニー・シルベスターという11歳の少年が落馬して、ひどい怪我をした。一命はとりとめたものの、ジョニーは寝たきりになっている。医者も原因がつかめない―たぶん精神的な理由がある―という。
 ジョニーの父親はベーブ・ルースのことを思い出した。ジョニーはルースの大ファンだ。彼の力で、息子は治るかもしれない・・・。父親はルースに連絡を取った。ルースは翌日からワールドシリーズをひかえていたが、 突然の申し出にいとも気軽に応じた。
 「よし、じゃ今日の午後、ジョニーのところへ行ってやろう。」
ルースがサインボールを持って病室へ入っていくと、ジョニーは目を見開いて驚いた。
「ジョニー、このボールはラッキーなんだぜ。早く野球ができるように元気になるんだな。よし、ワールドシリーズでは君のために特大のホームランを打ってやる。約束だ。」
 ニューヨークに帰ったルースは、この年のワールドシリーズ(対カージナルス戦)で、4本のホームランをたたき出した。ルースに会ったあと、ジョニーはめきめきと回復していったという。
 ルースが少年を見舞った話は美談として新聞で大々的に報じられた。これを「売名行為」だの「やらせ」 だのと陰口をたたく者も少なくなかったらしい。しかし、ルースが贈ったボールは、間違いなく素直な少年の心を力づけ、生きる勇気を 与えた素晴らしい贈りものであった。