イザベラ女王の帆船

イザベラ女王から帆船をコロンブスへ

「私は、そなたの熱意に賭けてみたい。」
1486年、コロンブスは初めてスペイン女王イザベラ一世に謁見を許された。女王に西廻りインド航路の計画を述べるためである。「地球は丸い」というだけで異端扱いされた当時、それを実証しようというのだ。
彼は、航海に必要な資金の援助を諸国の大商人や国王に求めたが、誰も相手にしてくれなかった。思い余ったコロンブスは、聡明で名高いイザベラ女王に願い出たのだ。彼は女王の前に進み出て、計画の全てを語った。
「どうぞ三隻の船を私にお与えください。お国の名誉と富のために。」
廷臣たちの嘲笑があたりを包んだ。しかし、女王は答えた。
「よろしい。そなたの計画を吟味させましょう。」
女王の言葉にコロンブスは明るい希望を持った。
しかし、地理や財政の専門家からなる「審議委員会」が結論を出すまで、コロンブスは4年間も待たねばならなかった。だが、やっと出た結論は「否決」であった。
諦めきれないコロンブスは、もう一度審議を願い出たが、1カ月もたたぬうちに再び否決された。
1492年1月、委員会は女王の前でコロンブスにその旨を通告した。(もうダメだ・・・)すべては終わったと思い、失意の数日間を過ごしたコロンブスは、行くあてもなく都を去ろうとしていた。
そこへ女王からの使いが訪れた。
「急ぎ戻ってほしい」との伝言である。おそるおそる入った謁見室には女王が待っていた。
「私は三隻の船とともに、そなたをインドに派遣することにしました。そなたの熱意にかけてみたい。必要なものはすでに命じてあります。」
あまりの驚きのために、コロンブスは息も詰まる思いだった。コロンブスはその場にひざまづき、深々と頭をたれた。
1492年8月3日早朝、コロンブスの率いる艦隊は、未知の新世界に向けて出港した。
イザベラ女王から帆船をコロンブスへ。 権勢を誇ったイザベラにとって、三隻の船を用意することはそれほど困難であったとは思いない。
むしろ、廷臣や国民の嘲笑の中でコロンブスを信頼することの方が、ずっと難しいことだったろう。
苦難の続く航海の中で、コロンブスを力づけたものは贈りものに込められた信頼の重みだったであろう。